第2章、ブレーキ痕と速度の関係
2-9、ほぼ0%の可能性でも安心できない
既に説明した様に、ライダーの右足は明らかに衝突時の衝撃で折れ、その後のミニバンの動きによって骨が皮膚を突き破ったと考える所ですが、実際の裁判ではそうは行きません。
損保側は「衝突の衝撃でライダーは吹き飛ばされ、着地の時の衝撃で右足を折り、更に骨が皮膚を突き破った!」(だから、事故直前、バイクは相当の速度で走行していた。 一時停止など行っていなかった!)と、何の根拠も無く言い放つ事も考えられます。
彼等はたとえ起きる可能性がほぼゼロであっても、「その様な事象が起きた!」と平気で主張して来ます。
(利益が絡むと、人間って恐いです…。)
この様な場合に備えて、事前に反論できる証拠を手に入れておかないといけません。
本件の事故では、『ミニバン側の破損から、バイクの速度が遅かった事を証明』しました。
もう一度、ミニバンのバンパーの破損写真を見て『一番損傷の大きい場所』に注目してください。
円形の破損は高さからもバイクのステップによって作られた物であり、その破損はラジエターにまで及んでいます。
カブのステップは特殊で、ハンドルの様な形状をしていて、バイクのフレームにボルト4本でガッチリ固定されています。
御覧の様にステップは鉄パイプを中心に形成されていて、他のバイクの様に、ステップ部分が折り畳まれたりしません。(出っ放しです!)
言い換えるなら、『飛び出たバイクのフレームの一部がミニバンのバンパーに突き刺さった!』と思ってください。
事故後、ミニバンのバンパーを貫き、ラジエターは『一点に集中して押されて破損した』形状を残しています。
(本件の事故で一番大きな破損個所です。)
これは非常に大きな特徴だと言えます。
もしも、損保側が主張する様に、バイクが一時停止をせずに中速(又は高速)で交差点に進入して事故が起きたなら、『バイクの速度分の破損の様態を残す』のが普通です。
先に説明した様に、特にこのバイクのステップ部分は動かない上に頑丈なので、事故当時のバイクの運動を色濃く映す部分だと考えられます。
破損個所や凹みは、何らかの形でバイクの進行方向の影響を受けるはず(下『CG』図)ですが…実際の破損(上『実際の破損』図)は、その様にはなっていません。
これが本件の事故を証明する大きなヒントになります。
ポイントその21: 速度の状態は、破損の形状に影響を及ぼす。
2-10、バンパーの破損と速度の関係
【1、停車中のバイクに衝突した場合】 バンパーに丸穴を開ける事ができる。
【2、走行中のバイクに衝突した場合】 バンパーに長穴を開ける結果になる。
【問題】
走行中のバイクに衝突してバンパーに丸穴を開けるには、どうすれば良いか?
【答え】
自動車もバイクと同じ速度で、バイクの進行方向に進んでいれば良い!
しかし、実際には自動車は真横には進む事は出来ない。
従って、バンパーに丸穴を開けた事実は自動車の運動方向(黒矢印)におけるY成分(赤矢印)の速度の大きさが、バイクの速度(Y軸上の赤矢印)とほぼ同じ大きさだった事を意味している。
簡単に言うと『ミニバンは斜めに走行していて、Y成分の大きさがバイクの速度とほぼ同じだった』と言えます。
この時点で、バイクの速度が非常に低速だった事が推察されます。