第3章、裁判外紛争解決手段(ADR)って…被害者の敵なの?味方なの?

3-5、紛センの弱点

紛センは『中立な弁護士を介して問題解決を目指す無料の施設』です。

損保会社に対して拘束力を持っており、損保会社側は紛センが下した判断に従うのが通例です。

一見、交通事故に対して最強の団体の様に感じます。

…ですが、交通事故被害者にとって一番大きな問題が『センターで行わない業務』として記載されています。

それが『後遺障害の等級認定に関する紛争』です。

僕は事故による脊椎損傷で上肢機能障害が発生して、愛知県から6級の身体障害者として認定されました。

それにも関わらず、損保側は「身体障害者として認めない!」と言う独自の主張を紛センでの交渉で貫いてきました。

「改めて、我々損保会社の規定で(勝手に)障害者かどうかを認定する。 ただ、今見た限りでは、あなたは障害者ではない!」と言うのです。

『しびれ』に『震え』…両手腕が不自由になり、病院で診断して県からも認められ、市町村からも毎月数千円ですがお金を頂き…事故によって名実共に身体障害者になった人間に対し、損保側は『当方は身体障害者として認めない!』と紛センで堂々と主張してきたのです。

びっくりしますよね!?

しかしこれが、交通事故の被害者である皆さんの対戦相手です。

彼らの首を縦に振らせる為の証拠を集めて、こちらの主張を突き付ける必要が有るのです。

無論、裁判で…の話ですが。。。

少し脱線したので話を戻します。

紛センでは『後遺障害の等級認定に関する紛争』は扱ってくれません。

損保側が「身体障害者として認めない!」と主張すれば、紛センは障害者の等級云々に対して異を唱える事はルール上できない事になっているのです。

(そう言う決まりなのです。)

つまり、交通事故で障害者になった場合には、紛センでの解決は困難だと思った方が良いでしょう。

紛センの利用は、事故における『物損部分の補償額のデータ』を集めるだけにして、すぐに裁判に移行する方がスムーズかつ経済的に紛争の解決に向かうと思います。

同じADRですが弁護士の斡旋までしてくれる『交通事故相談センター』の方が場合によっては使い易いかもしれません。

どんなADRでもメリットとデメリットが有ります。

それらを調べた上で、自身の事故に合う解決方法を探してみてください。

ポイントその29: どんな物にも『例外』は有る!

3-6、【コラム】EDR

事故直前の自動車の挙動をデータとして保管する装置(EDR:イベント・データ・レコーダー)が、ほぼ全ての自動車に取り付けられています。

EDRは最近流行のドライブレコーダーの様な『映像を記録する装置』とは違い、速度や舵角、アクセルやブレーキの踏み具合、衝撃やエアバッグ作動の有無、シートベルト装着の有無など、『センサーが存在する箇所のデータを、1秒間に特定の間隔毎に収集して記録する装置』です。

基本的に『エアバッグの動作に関係する情報』を保存しているのですが、同時にこれらの情報から『事故直前に起こった実際の動作』を調べる事が可能です。

2009年から大きな問題として取り上げられる様になった『トヨタ車の意図しない急加速』事件が発端となり、濡れ衣を着せられたメーカー側は『事故直前の車両の状況を記録するシステム』のデータを盾に無実を訴えたのでした。

2016年の福岡の暴走タクシーの件でも、運転手は「ブレーキを踏んだが止まらなかった」と供述しているが、EDRに残されたデータから、『衝突前に運転手がアクセルを踏んでいた』事が分かっており、ペダルの踏み間違えが原因だと思われます。

つまり、事故車両からEDRを抜き取っておけば、そこに残された情報は後々正しい事故の証明に使える可能性が高いのです。

EDRの設置場所はコンパネ中央や座席の下辺りが多い様ですが、メーカーや車種によって様々なので整備マニュアル等で調べてから回収を行うと良いでしょう。

(事故直後に裁判で使う可能性が有る旨を説明して、修理工場などで取り出して貰うと良いでしょう。)

ただ、残念な事にEDRの利用には2つ大きな問題があります。

1つ目の問題は『EDRのコネクターが各車バラバラ』で、データを抜き出す為には専用の装置(コネクター)が必要です。(しかもかなり高額です!)

つまり、EDRを読み取る環境を作るのが難しいのです。

2つ目の問題は『データの書き換えが容易』な事です。

事故後、勝手にEDRデータを書き換えられたり、消されたりしない様に注意してください。

EDRのデータは警察が調書を作成する際にも有効です。

個人を特定するデータと紐付けせずに自動車の走行データをオンライン上にアップして、事故後(事故証明の発行後)に参照できる仕組みができれば、非常に好ましい運用になると思います。

(AIによる自動運転車の普及の前に、『車内LANの情報の開示』は是が非でも義務付けたいルールだと…僕は考えます。 これは消費者の権利です。)

まぁ、それでもプライバシーを盾に反対する人も一定数は居ると思いますが…。

(普段一体何をしてるの? お天道様は見ています! …実は、犯罪の抑制にも一役買うシステムなのです。)

他にもまだまだ色々な問題が有ると思いますが、それらを差し引いても、事故原因の追究と今後の事故を減らす為に事故発生後に誰もがすぐにEDR等のデータを参照できる社会に変わる事を願って止みません。

ポイントその30: 事故車両には原因究明が可能なデータが残されている!