第2章、ブレーキ痕と速度の関係

2-5、人体飛翔だと矛盾する理由

人体飛翔しない根拠は、

1、最初に衝突するのはバンパーと右足(挟まる)

2、体が衝突の衝撃で吹き飛ぶ(右足は挟まったまま)

3、自動車が後進するまで、ライダーの右足は抜けない。

と言う事です。

足首がちぎれたら、人体飛翔が発生する!


仮にライダーの右足が『ちぎれていれば』人体飛翔した可能性も0ではないのですが、本件では『ライダーの右足は開放骨折したが、繋がっていた』ので、人体は飛翔しなかったと断言できるのです。

つまりこの事故では、人体飛翔はあり得ないのです。

ミニバン運転手が「止まった」と主張した場所&ライダーが倒れていた場所


事故直後、『ライダーは上図のの路肩(ウ)に倒れていた』ので、本来なら『ミニバンもここで停止した』と考えるのが自然です。

(⑤で停止したとするミニバン運転手の主張は誤り。)

ミニバン運転手が「止まった」と主張した場所&ライダーが倒れていた場所


⑥の位置までミニバンが進んだ後に後進しなければ、『ライダーの右足が解放される事は無い』はずです。

だから、本件では『ライダーが倒れた位置の手前 ≒ 衝突後のミニバンの停止位置』だと言えます。

この様に、開放骨折の様な『重篤な怪我』を負ったケースでは、『何故そうなったのか?』…その原因を注意深く考察してみてください。

(「じつは右足は偶然挟まっていなかった!」…の様なご都合主義の仮定を行う人も居ますが、良~く考えてください。 『その場合、ライダーはどこで開放骨折をしたのですか?』 『どの様に回転したら、この様な開放骨折と移動が可能ですか?(大ヒントです!)』 …その辺りを正しく推察すれば、最終的に辻褄が合わなくなります。 残念ながら屁理屈をゴリ押ししても、裁判では認めて貰えません。)

また、バイクの様なある程度重量のある剛体の交通事故では、『大きく負った傷に、事故の様態を色濃く残している』事が少なくありません。

人体飛翔など…馬鹿の一つ覚えで何でもかんでも知っている交通事故の物理現象に結びつけて事故を説明しようとしてはいけません。

また逆に、相手側のその様な主張に踊らされてはいけません。

以上の様に、交通事故では衝突後、人体が吹き飛ばない状況も十分考えられます。

「ライダーはどこで開放骨折をしたのか?」、「ライダーの右足はどこで解放されたのか?」、「ガウジ痕の意味は?」…

物証や現場の状況と同様に、事故で負った怪我の状態からも物理的に考察する必要が有るのです。?

ポイントその17: 大怪我は、大きなエネルギーが消費されたサイン!

2-6、ブレーキ痕の長さから速度を逆算

現場は交通事故もヒヤリハット(『事故にはならなかったが、危険を感じたシーン』の事)も多い交差点で、事故から大分経過してから僕が調査に訪れた際も、路面には3本のブレーキ痕が存在していました。

事故後に『事故に関係するブレーキ痕だけを探す』のは難しいかもしれません。

残念ながら実況見分調書にはブレーキ痕は明示されていませんでしたが、動作の場所と距離は分かっています。

ミニバン運転手が「止まった」と主張した場所&ライダーが倒れていた場所


No 動作 次までの距離 V(km/h)
ブレーキ開始 ②~③:16.5m ?(km/h)
危険察知 ③~④:4.6m 46.7(km/h)
衝突 ④~⑥:7.7m 37.0(km/h)
主張した停止場所 - -
本当の停止場所 - -

残された証拠から事故の様態を逆算します。

先の項目で説明した様に、ライダーの怪我の状況からも『ミニバンは⑥の位置で停止した』とすべきです。

先のv(km/h)=√254.016μL より、晴天時のアスファルトのμは0.85~0.70なので、危険察知時の地点③での速度は

v (km/h)=√(254.016・(0.85~0.7)・(4.6+7.7)

v (km/h)=51.5~46.7(km/h)

以上より、直線で近似しているので若干誤差は有るものの、ミニバンは③の地点で最低でも46.7~51.5km/hよりも高い速度で走行していたと考えられます。

そして、②地点では現場の制限速度30km/hを大きく上回る『60km/h以上の速度(著しい過失に相当)で走行していた』と予測されます。

ポイントその18: 停止位置から衝突時の速度を逆算できる!