第4章、交通事故と物理学

4-7、自動運転

2016年3月のニュースで、碁の世界においてAIが九段のプロ棋士を打ち負かす快挙が報じられました。

お笑いの世界では、お笑い用AI「大喜利β(ベータ)君」とお笑い芸人(若手お笑いコンビ「ニューヨーク」の嶋佐和也(しまさ・かずや)と、屋敷裕政(やしき・ひろまさ))が大喜利で対決して、人工知能の大喜利β君が勝ったそうです!(笑)

コンピューターの進歩の凄まじさを感じる出来事でした。

自動車の世界でも『自動運転』について近年様々な技術が発表されていますが、今後恐らく避けて通れない困難が待ち受けている事でしょう。

自動運転の際、人や障害物だけでなく『人が運転する車両』ともぶつからない様に制御しなければならないのですが、技術的にはまだ難しいと思われます。

自動運転が手動運転のヒューマンエラーをどこまで吸収できるかが事故数を減少させるカギになる事でしょう。

つまり、最も危険なのは、自動運転と手動運転が混在する時期です。

その際、残念ながら一時的に交通事故数が増加する事が懸念されます。

恐らく、『10年以内に訪れる可能性の高い問題』だと思います。

ただ、実社会で考えると、自動車の全自動運転化は技術的に高度で、到達順位が遅い気がします。

まず先に、ルートも速度も停車位置も一定の値に収まる『電車の全自動運転化』の方が先に行われるべきでしょう。

他にも、自動車の製造ラインにおいて、部品を運搬するカートも現状では一部は全自動化されていません。

一般道で全自動運転を提供する前に、ルートの決まっている『敷居の低い事柄』から先に自動運転化する方が危険も少なく効果的です。

(しかも、運用データも取れます。)

そう考えると、今後10年の間に鉄道会社が乗務員を大量に解雇したり新卒の雇用を激減させた時が、自動車の自動運転が本格的にスタートする合図かもしれません。

もう少し踏み込んで考えると、自動車レースの世界で、レーサーに代わって自動運転によるレースが一般的になる方が、公道での全自動運転より先であるべきだと思います。

(サーキットと公道の自動制御は全く別物なので、関係が無いと言えばそれまでです。 しかし、技術的に複雑な公道での自動制御の方が、完成までに時間がかかると予想されます。)

そう言った技術を培う為にも、今後、日本国内でも『ROBORACE』や『DARPA』の様な自動運転によるカーレースが増えて行く事を願っています。

しかし、現在車両の運転を仕事にしている人達は、自らの存在を脅かす恐ろしいテクノロジーが…すぐそこまで来ている事に危機感を抱かれるかもしれません。

個人的には、『交通事故鑑定を一瞬のうちに行ってくれるテクノロジー』が発達したら、とても嬉しく思います。

同時に、『コンピューターが行った工学鑑定が本当に正しいのか?』を検証する必要が出てくると思うので、交通事故に対してもコンピューターに対しても現状よりも更に進んだ理解が必要になる時代がやって来るのではないかと…感じています。

残念ながら、コンピューターが『正しい工学鑑定を行うのか?』『イカサマの工学鑑定を行うのか?』は、全てそのソフトを作った人のさじ加減次第だからです。

現状、僕がプロの鑑定人や大学教授の事を全く信用せずに、事象に対してのみ正誤を追求して鑑定しているのと同様に、コンピューターが出した鑑定結果に対しても異議を唱える時代がやって来るかもしれません。

ポイントその39: AIによって技術的に容易な作業から順に自動化されるが、それらは絶対ではない!

4-8、10年以内に社会を変えろ

先に説明した様に、自動運転が普及する今後10年以内に、交通事故の件数が一時的に増加する時期がやって来る事でしょう。

何度も試験を重ねたテクノロジーですら予見できなかった『まさかの事故』が発生するからです。

皮肉な事に、世界が交通事故と決別しようとした時期に、最も交通事故が増える結果になる可能性が高いのです。

ただこれは、人類が交通戦争を終える上で、どうしても避けられない道だと言えます。

ですが、ここで問題です。

『自動運転車がソフトやハードのミスによって交通事故を起こしてしまった場合に、それを速やかに明らかにして補償を行う事が企業にできるでしょうか?』

具体例として、少し前に起きた事故の話をしましょう。

2013年、愛知県飛島村の伊勢湾岸自動車道路下り線の3車線中央で『大型トラックが乗用車に衝突し、乗用車の3人が亡くなる事故』が発生しました。

高速で走行中の乗用車のエンジンが突然止まり、動かなくなった所に大型トラックが後ろから追突して事故は起きました。

乗用車は『納車1年以内の新車のレンタカー』で、『タンクには燃料も残っていた』事が後の調査で分かっています。

この事故では『トラック運転手に禁錮1年2か月の判決』が出され、トラック側が上告するも棄却されて判決が確定しました。(おわり)

…それで???

この状態で終わって、もし皆さんが事故の当事者だったら納得しますか?

普通なら、そもそも『高速で走行中の乗用車が突然停止した原因は何だったのか?』と思いませんか?

『突然、自動車が動かなくなった』事こそが、この事故の一番大きな問題点です。

この事故を取り巻く状況として、

・整備不良やガス欠ではない。(新車のレンタカー&タンクに燃料有り)

・乗用車と同系の車では燃料噴射装置が故障し易いなどの指摘がユーザーからあった。

・乗用車と同系の車で燃料噴射装置などの不調でエンジンが停止した事例が多数報告される。

・2013年9月、事故車以外の5車種で『アクセルペダルのセンサーに不具合がある(最悪の場合、走行中にエンジンが止まる恐れが有る)』として、リコールを行う。

…など、多くの人からリコール隠しを疑われても仕方のない『非常に香ばしい匂いがするハードやソフトの状況』が背景にあります。

しかし、そんな事よりもこの事故で一番問題視すべきなのは『警察・検察を含めて、誰もこの事故の真相を究明しない』と言う事実です。

何度も言いますが、『企業は利益を求めて活動』しています。 そして、その為なら全力を尽くします。

それに加え、「乗用車のリコール隠しでは?」と憶測で物を言うと、逆に『自動車会社から損害賠償を請求される』と言う社会的なブレーキも存在します。

また、警察・検察は犯人が捕まってそれ相応の刑罰を受ければ、それ以上事件や事故の中身を追求しません。(民事不介入!)

『伊勢湾岸道 レンタカー 死亡事故』で画像を検索して貰うと分かりますが、トランクから後部座席までがペシャンコに大破した乗用車から『突然停止した証拠を掴むのは至難の業』だと言えるでしょう。

仮にこの事故の真相を究明しても、得をする(かもしれない)のは禁錮を食らったトラック運転手だけです。

『真相が分かる事で得る利益 <<< 真相が分かる為にかかるコスト』…この様な状況だと、真相は闇の中に行き易いのです。

今後も欠陥車両を使用する一部のユーザーが被る不利益については黙殺される社会のままで良いのでしょうか?

残念ながら、良くも悪くもこれが資本主義社会の現実です。

企業としては、ユーザーに責任をなすり付けた方が『補償も行わなくて済む』上、『社会的な評判を落とさなくて済む』といった具合に、非常にメリットが大きいのです。

少なくとも、被害者に対してバカ正直に事故原因を明らかにするメリットは…何もありません。

あなたが企業側の人間だったら、どうすると思いますか?

最悪、損保会社だけでなく、自動車メーカーや自動車部品メーカーが被害者の敵に回ったら…大変ですよね?

事故のデータをもみ消されたり、改ざんし、でっち上げられたりしたら…一般人では太刀打ちできません。

当然、その様な不正を許さない定点カメラ等のインフラ整備や、公的な事故鑑定機関、そして一般市民による草の根の活動が必要になってくる事でしょう。

悪い事をした人間が優遇される社会ではダメです。

『嘘がバレると社会的な制裁に繋がるので、誠実に対応する方が好ましい。』…と、企業側が即決する社会を作る必要が有るのです。

原因不明の事故の発生の増加が予想される10年以内に。

・嘘なんか吐かないだろう。 ・しっかり対応してくれるだろう。 ・最後に正義が勝つだろう。

…と、性善説だけで世の中を考える事はできません。

根本的に『悪事が割に合わない社会』を作るべきなのです。

「AIによる自動運転車が普及すれば、便利になるし事故が減るから良いね!」…で済む話ではないのです。

新しい技術の到来に対して、それによって生じる問題を発生させない為の社会の仕組み作りが求められているのです。

ポイントその40: 自動運転車が普及する前に、被害者を守る為のインフラと法整備を行う必要がある!