第2章、ブレーキ痕と速度の関係

2-7、異議あり?

前項の『速度の逆算値』を提示した際、損保側の鑑定人は何を血迷ったか…裁判で「(バイク側の主張は)空走距離を考慮していない!」と主張してきました。

恐らく、空走距離が何か分かっていなかったのでしょう。

『危険を察知してからブレーキに足を乗せて効くまでに進んでしまう距離』空走距離です。

しかし、先の表の通り、下り坂を下って来たミニバンは、交差点の手前の地点②から『ブレーキを開始』しています。

(これは、実況見分でミニバンの運転手自身が主張した内容です。)

ミニバン運転手が「止まった」と主張した場所&ライダーが倒れていた場所


No 動作 次までの距離 V(km/h)
ブレーキ開始 ②~③:16.5m ?(km/h)
危険察知 ③~④:4.6m 46.7(km/h)
衝突 ④~⑥:7.7m 37.0(km/h)
主張した停止場所 - -
本当の停止場所 - -

これに対し、僕が「ミニバンは②からブレーキを開始しており、(既にブレーキに足は乗っているので)③で空走距離を考慮する必要は無い!」と注意すると、今度は

交通事故の裁判で飛び交う『嘘と言いわけ』


(損保側が裁判に提出してきた資料より抜粋)

「ミニバンの運転手は、一度ブレーキを戻し、再び急ブレーキを行った!」と言ってきたのでした。

もちろん、その様なブレーキ操作はミニバン運転手の実況見分調書には一切書かれていません。

完全に損保鑑定人の作り話です。

(むしろ、この主張が通ると、ミニバン運転手は『交差点手前で止まれない事を承知でブレーキをやめた』事になり、危険に対する予見や対応を怠ったミニバン側の過失が認められる結果になるでしょう。 『見通しの悪い交差点で、停止できないのを知っていてブレーキを放した=故意』…完全にヤブ蛇です。)

確認の為に再度言いますが、これは裁判で提出された資料からの抜粋です。

交通事故のプロである鑑定人が、しかも裁判で…この様な『都合の良い嘘の主張』を言ってくるのです。

言ってる事がメチャクチャでしょ!?(裁判で…です。)

もう、恥も外聞もありません!

基本的に被害者側は『交通事故鑑定人を付けないケースが多い』ので、弁護士さんが空走距離や制動距離を理解して、計算して貰わなければなりません。

(こういった理由から、交通事故案件を嫌う弁護士さんが居るのも合点がいきます。)

ただ、最近では『弁護士特約』を上手く利用して、スポット的に鑑定人を利用する被害者側の弁護士が増えてきました!(分業すると効率が上がります。)

弊社では『物理的解説』も承っています。

被害者側はこの様な嘘の主張に対し、早急にツッコミを入れなければなりません。

交通事故で戦われる方はくれぐれもご注意ください。

ポイントその19: 可能性が0.000001%未満の事でも、裁判で主張してくる!

2-8、丁寧に作りこまれた実況見分調書

この事故ではとてもラッキーな事が有りました。

それは、実況見分調書を作ってくれたお巡りさんが、かなり詳しい現場の状況を残しておいてくれたのでした。

詳細な実況見分


本当にもう、菓子折りを持ってお礼に行きたいくらいの力作でした!

(この調書を作成して頂いた愛知県半田警察署のO巡査部長。 助かりました。 本当にありがとうございました。)

ミニバンの運転手は、自分にとって都合の良い『物理的に矛盾した事故の状況』を実況見分調書で喋ったみたいですが、それに対しては何もツッコミをせず、ただ言われた通りに淡々と調書を作成して頂けたのだと思います。

僕はそのバトンを受け取ったお蔭で、物理的に間違っている個所をトコトン詰めていくだけで、おのずと結果は得られました。

先の『2-4、人体飛翔が起きない理由』内で書いた様に、『ライダーの右足の脛(すね)の開放骨折』の事実は、実況見分調書の図からも納得の行く状況だと言えます。

詳細な実況見分(補足)


ミニバンの動きに連動して挟まっているライダーの右足(右足・足首)も画面下方向に向かって移動する力を受けます。

ライダーの体はその場に留まろうとし、右足はミニバンに押されながら下方向に移動…。

その結果、骨が折れた右足は脛(すね)側を突き破る開放骨折になったと推測されるのです。

以上、現場に残された傷や怪我の状況から考えても、ミニバン運転手の主張した内容は矛盾だらけだと言えます。

しかも、この事故直後にライダーを救護して救急車を手配したのは、近所の第一発見者の男性でした。

その男性の証言では、「事故直後、ミニバンはバンパーに刺さったバイクを外す為、必死にバックしていた!」との事でした。

衝突して流血し、倒れているライダーを放置して…です。

第一発見者の方は、「必要なら裁判所で見た通りの内容を証言しても良い!」とまで言って頂けたのですが、幸か不幸か…裁判ではその様な状況にならなかった事を、僕は少し残念に思いました。

顛末や数式については弊社WEBページの『鑑定例』の個所に記載してありますので、興味のある方はご参照ください。
(URL:http://win-d-net.co.jp/solution.html

ポイントその20: 交通事故の当事者は必ずしも真実を話すとは限らない!(特に落ち度が有る側は!)