第4章、交通事故と物理学

4-9、【コラム】ステージ

最近、依頼人からの提案に少し驚かされました。

「弁護士さんを使って示談をしたい!(だけど、裁判は極力行いたくない!!)」

…との事でした。

いやいや、ちょっと待ってください。

弁護士さんに動いて貰う時点で料金は掛かります。

(弁護士特約で賄われていても、実際には報酬が支払われています!)

そうであれば、自らの主張を第三者の目で公平に判断して貰える上、拘束力の有る『裁判での決着』を行う方が紛争の解決はスムーズに進む事でしょう。

残念ながら、弁護士同士の話し合いでも折り合いがつかない事なんて、日常茶飯事です。

話が平行線のままで、進退窮まり、そこで1から裁判を始めた場合…時間的なロスは相当なものになります。

交渉途中のネタバレ(相手を追いつめる物証の開示)なども、裁判前に予備知識を与える事になり、マイナスに働く可能性があります。

中には「(弁護士は)儲けたくて裁判をしたいんじゃないのか!?」と言われる人も居ますが…それは見当違いです。

裁判でも示談でも、弁護士が動いた時点で料金の支払いは発生します。

だったら、弁護士が最も力を発揮し易い裁判所で戦って貰った方が『結果に繋がり易い』事は…理解できないですか!?

依頼人側に落ち度が無い(もしくは、わずかな)場合には、胸を張って裁判で損害賠償を求める方がメリットが大きいケースが少なくありません。

裁判を行うべきではない『損害の非常に小さな事故』の場合は除きますが、入院・通院・休業補償・後遺障害・死亡…など、事故による損害が小さくない場合には『裁判も視野に入れて対応する』事をオススメします。

ちなみに、損保側は裁判を嫌がったりはしません。

交通事故後の示談交渉で、「裁判をチラつかせて、有利な示談を手にしよう!」みたいな内容が書かれた文章を目にした事が有りますが、無意味な行為です。

『示談で解決するつもりなら、示談に全力を傾ける。』

『裁判で解決するつもりなら、裁判に全力を傾ける。』

ブレずに方針を貫く事が重要です。

示談を行い、上手く行かなかったら裁判…という両面作戦もありますが、『二兎追う』事で発生するマイナス面を考慮すると、決して得策ではない事を覚えておいた方が良いでしょう。

ポイントその41: 弁護士とよく話し合って、最適な方法を選択する!

4-10、【コラム】フォースと共にあらん事を…

勘違いをされている人がたまに居ますが…事故後、強制保険(自賠責保険)で補償される額を超過した分を損保(任意保険)が補填するのです。

損保会社が全額支払うわけではありません!

ある一定の額までは、自賠責保険で賄われます。

つまり、強制保険(自賠責保険)の支払い限度内で被害が収まれば、損保会社の出費は無いのです。

すると、こんな願望が芽生えます。

保「何とか自賠責の限度額内で収まらないかな…。」

事故の様態に関係無く、損害の総額から『限度額に収まる過失割合を認めさせよう!』とする力が加わるのです。

仮に自賠責の限度額を超えてしまった場合でも、『あの手この手で補償額を低く抑えようとする』のです。

だから、『完全な嘘で固めた事故の様態』なんて驚きのシロモノが裁判で飛び出て来るのです。

物理的に矛盾だらけの事故内容がでっちあげられるのは、それによって得をする人間が居るからです。

過失相殺と言うシステムを悪用して、事故の事実には目もくれず、『一番利益が出る状況を作り出す』…。

一部の人間が都合の良い結果を得る為に用いている手法なのです。

残された証拠を無視して、理想の結論に引っ張られるバイアスがかかっている時点で…正しい交通事故鑑定なんて不可能です。

『正しい交通事故の分析を行って、事実に近い結論を得る事』よりも、『間違った分析でも、会社(お客側)にとって都合の良い結論を出す事』の方が評価される資本主義のシステムが問題なのです。

学識者ですら、自分の専門知識を曲げる程の魅力を持つ世界です。

会社員や下請け企業であれば、間違った知識であっても右向け右で理屈を曲げる事なんて当然の事であり、造作も無い事だと思った方が良いでしょう。

・インチキ調査、嘘鑑定

・イチャモン屋、屁理屈弁護

・示談直前の無茶振り

などなど…21世紀の日本では『そんな仕事が有る!』と言う事です。

これはビジネスです。

利益を得る為の活動なのです。

もっと言うと、需要が有るから供給が有るのです。

そうは言っても、『依頼人にとって都合の良い状況』を目指して、それらしい説明だけをツギハギして作った書面。

当然ながら、交通事故の事実とは異なります。

現在の『物理的フィクション作家に報酬を払って、プロとして認める世界』で…本当に良いのでしょうか!?

時間が有る時に、転職情報サイト等で『損保関連の事故処理の仕事』を検索してみてください。

このご時世にも関わらず、かなり多くの求人の有る業種だと思います。

更に突っ込んで、その仕事の経験者のコメントを読んでみると良いでしょう。

無茶苦茶な要求をする被害者からの鳴り止まない電話…。

逆に、全く非の無い被害者に対して、限界を超えて補償額を叩かなければならない自分の立場…。

3年間で大半の人間が辞めるこの業界の企業環境を理解すべきでしょう。

つまり、『被害者が最初に接触する事故処理部門の方々は、精神的にかなり追いつめられた環境に居る可能性が高い』事を覚えておいてください。

数字を追う為に人間を辞めてトラになっている担当者に会うかもしれない…という事です。

(ノルマの未達のペナルティーを食わない事で頭がいっぱいな担当者も居るのです。)

そんな相手に、『モラル』とか『性善説』とか『人としての誇り』を期待しても、望みは非常に薄い事でしょう。

だからこそ被害者は、正しい事故の事実を追いかけて、その内容を強く主張し続けてください。

そして、声が大きいだけで何の根拠も無いタラレバの主張には惑わされない様、注意してください。

ポイントその42: どこの世界にも、暗黒面は有る!