第5章、角度の詳細

5-7、交差点内でのなす角

この章で用いた『角度の考察』を発展させると、交差点内での右折×直進の事故等の考察を行う事もできます。

交差点内の衝突角度


この時狙われるイカサマは、『衝突角度を絡めた速度』です。

仮に、浅い角度で衝突すると、赤車の運動エネルギーは縦方向に多く影響を与えます。

交差点内の衝突角度(浅い)


【浅い衝突角だと、赤車の運動エネルギーの多くが緑車の破損に使われる】

その為、仮に緑車が大破していた場合でも、『お互いに有る程度の速度で衝突した』と考える事ができます。

(つまり、赤車の速度も高かった!)

ところが、深い角度で衝突すると、赤車の運動エネルギーは横方向に多く影響を与えます。

交差点内の衝突角度(深い)


【深い衝突角だと、赤車の運動エネルギーは緑車の破損に少し使われる】

その為、仮に緑車が大破していた場合、『緑車が高速で衝突した!』と考える事ができるのです。

(つまり、緑車だけが高速だった!)

損保側が『緑車』だった場合は、『浅い角度での衝突』を主張して、緑車の運動エネルギーの影響を少しでも多く赤車になすり付けに来る事でしょう。

損保側が『赤車』だった場合は、『深い角度での衝突』を主張して、緑車の破損は全て緑車の速度超過によるものだと主張する事でしょう。

(「信号は赤で、右折の矢印も出ていた!」等の主張をしてくるかもしれません…。)

この様に、速度値をごまかしたり、相手に濡れ衣を着せる為に、巧妙に衝突角度を仕組んでくる事はイカサマ鑑定では珍しい事ではありません。

だからこそ、相手側の主張する衝突角度が浅かろうと深かろうと、必ず『どこから旋回を開始して、どの様な軌跡を描いて旋回を終了させるつもりで運転していたのか?』を確認してください。

これは、衝突角度を考察する上でのスタート地点です。

先の浅い角度の衝突の様に、『もし、事故が起きなかったら、赤車はどこに向かうのか?』…そんな説明すら出来ていない鑑定書面が存在しています。

交差点内の衝突角度(交差点を曲がりきれない)


『浅い角度で衝突した!』と主張するのは結構ですが、当然『その後、右折を完了できる事』が前提になります。

障害物に衝突したり、歩道に乗り上げるなど、言語道断です。

ところが、衝撃で車両が別方向に動いたり、その場で止まったりした事を利用して『実際には有りえない角度での衝突を主張する裁判資料』が後を絶ちません。

基本的に『角度値』は『速度値』とセットになっています。

お互いに影響を与える存在なのです。

その為、都合の良い様に角度値に手を加えると、現場の状況や残された物証と矛盾する結果になる事も少なくないのです。

現実では、物理的にどこもかしこも辻褄が合う様に数値を細工する事は非常に困難です。

だから、探してください!

都合の良い主張に潜む矛盾を見つけてください。

直接はイメージし難いかもしれませんが、『衝突時の角度が浅かったら(or 深かったら)、その結果どうなるのか?』(その先はどこへ向かって進んで行くのか?)を常に考え、取り得る条件を全て考えて、事故で残された破損や物証に照らし合わせて真実を追求してください。

ポイントその49: 衝突前後の軌跡を考える!

5-8、【コラム】自己鑑定のメリット

事故後の僕はお金が無く、それでも裁判で勝利を手にしなければ人生が終わってしまうと本気で思っていたので、必死になって自分で交通事故鑑定を行いました。

必要に迫られて行った自己鑑定ですが、実は『とても運が良かったのかも…』と、最近思うようになりました。

現在、交通事故鑑定人をやっている本人が言うのも恐縮ですが、交通事故の業者にはまがい物が多いからです。

インターネット上で『交通事故鑑定人』で検索すると、幾つもの会社が出てきます。

ですが、その多くが真実を追求する企業かどうかは甚だ疑問です。

不正と言いましたが…厳密には『物理的に説明のつかない事を、裁判に鑑定書面として提出して生業にしている人達』の事です。

そんな鑑定書面であっても、CGや図が綺麗だったり、文章が上手かったりすると、裁判で勝ってしまう事があるので…本当に困ったものです。

裁判で『都合の良い条件で勝つ事』を目的にしている業者にとって、彼らの作る『嘘で塗り固めた鑑定書』は役に立つ事が有るので、いつまでたっても無くならないのです。

極論ですが、業者に頼まず自分で交通事故の鑑定を行えば、不正な業者に騙される事はありません。

自分で行うのは難しければ、物理学や数学の得意な友人や知人に頼むのも1つの方法です。(ただ、それ相応のお礼は必要だと思いますが…。)

ちなみに、怪しい業者はWEB上で意外と簡単に判別できます。

その多くが『代表や鑑定人が顔写真を出さずに運営』しています。

逆に質問しますが…トップや実務部隊が顔写真を出せない会社とは、一体どんな会社なんでしょうか?

(何か問題ですか? 後ろ暗い事でも有るのでしょうか?)

大きな金額が動く交通事故の世界では、依頼には細心の注意が必要だと言えます。

ただ逆に、WEB上に顔写真を出せない何か『確かな理由』が有れば話は別です。

例えば、『自分でWEBページを作ったが、写真の載せ方は分からない』とか…。

しかし、そうではない場合には企業規模の大小に関わらず注意が必要なのです。

あと、裁判で戦う事を決意した被害者にとって、『助っ人として依頼した交通事故鑑定人が実は損保側と仲良し』だったりすると…困ってしまいます。

基本的に交通事故では『被害者の数だけ加害者が居る』ので、交通事故案件には損保会社がほぼ関わっていると言えます。

交通事故関係の仕事を手にしたければ損保会社と仲良くするのが安定した収益に一番近道な世界なのです。

WEBページもしっかりした作りで、資金も人材も設備も潤沢な交通事故鑑定会社であれば一見安心して任せる事ができそうな期待を抱くかもしれません。

しかし、それらを支えている裏側の構図は被害者側からは分かりません。

依頼をする前に、『本当に信頼に足る会社なのか?』を判断する必要が有るのです。

鑑定書面の判断には物理的・工学的な知識が不可欠ですので、その辺りを注目せずに交通事故鑑定人に依頼をした被害者や弁護士の方は…鑑定人の効果を実感できない状況に陥る恐れがあります。

何を信じたら良いのか?

誰を信じたら良いのか?

様々な嘘が存在するこの世界で騙されない様にする為には、被害者自身が『基礎的な事だけでも理解できるチカラ』を身に付ける必要が有るのです。

ポイントその50: 他人に工学鑑定を依頼しても、『その内容が正しいかを自分で判断する必要がある』ので、結局、セルフ事故鑑定のチカラが必要になる。